布引観音 メモ
○釈尊寺観音堂宮殿
鎌倉前期/1258、桁行一間・梁間一間・一重・入母屋造・板葺
長野県小諸市大久保・布引山釈尊寺
☆牛に引かれて善光寺参り
昔、信濃の国・小県の里に心が貧しい老婆がいました。 ある日、軒下に布を干していると、どこからか牛が一頭やってきて、その角に布を引っかけて走り去ってしまいました。女はたいそう腹を立てて、
「憎たらしい。その布を盗んでどうするんだ。」
などと怒りながらその牛を追いかけていきました。 ところが牛の逃げ足は早く、なかなか追いつきません。 そうする内に、とうとう善光寺の金堂前まで来てしまいました。 日は沈み牛はかき消すように見えなくなりました。 ところが善光寺の仏さまの光明がさながら昼のように老婆を照らしました。 ふと、足下に垂れていた牛の涎を見ると、まるで文字のように見えます。 その文字をよく見てみると
うしとのみおもひはなちそこの道に なれをみちびくおのが心を
と書いてありました。 女はたちまち菩提の心を起こして、その夜一晩善光寺如来様の前で念仏を称えながら夜を明かしました。 昨日追いかけてきた布を探そうとする心はもうなく、家に帰ってこの世の無常を嘆き悲しみながら暮らしていました。 たまたま近くの観音堂にお参りしたところ、あの布がお観音さんの足下にあるではないですか。 こうなれば、牛に見えたものは、この観音菩薩様の化身であったのだと気づき、ますます善光寺の仏さまを信じて、めでたくも極楽往生を遂げました。 そしてこのお観音さまは今、布引観音といわれています。
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