グンマの昔:焼饅頭
○焼饅頭(味噌附饅頭)
アノ豊艶な容積! アノ細かに包む砂糖味噌! 図らざる垂涎に思はず訊く値の、僅かに一銭なるに顧眄、『隣の店に並べてあるアノ小さな団子でさへ、やッぱり五つの一銭だのに、能くまァ此度に安く売れるわい…』
初めての旅人は、莞爾一番、つい手を出す、口にする。 其の時、否その刹那、其の内容、其の味質、其の価格の孰れに於いても、却と隣在の団子の遥かに優越し居るを知り、其の余りに見かけ倒しなるに、何人と雖も喫驚せぬ者はなからう。
(あゝ宗教の危機!:即上州気質の危機、真下醒客、日月社1916年)
※前橋名物「味噌つけ饅頭」に負けることなく、「片原饅頭」が売れたらしい。
○上州気質
近来の上州人は多く嬶の前・益我の前には自我がなく、自らを蹂躙とている。 然るに之に反して又、超然傲然、自己の圏内は窺知させまい、自己の威厳は傷けまい、と努めている矛盾がある。 殊更に磊落瀟酒を装うも畢竟装うに止り、時に英雄倣放を気取るも、啻に気取るの圏内を出でぬ。 己を高く見せんとする。 『其處に他を貶す』の陣地があり『偉くなるな』と囁いているサタンがいるのだ。
彼等の多くは流行を趁い、新しきを街ふの穉気は持し居るも『酸鹹甘苦』の戦場に、一歩々々の尊き汗の躍進ま彼方に望むべき微笑みの偉業は知らぬ。 否、之を知るも、之を行うの根気と隠忍なきを如何せん。 面に『遊廊は拵へません』と堂々言をなして、内に魔窟の跋扈跳趯あるも『是れ已む無し』の遁辭に黙過している。 …あゝ其處に今言うはうとする問題の根が、堅く涵されているではないか。
(あゝ宗教の危機!:即上州気質の危機、真下醒客、日月社1916年)
※砂糖がまだ無い時代、味噌に甘さを求めたといわれる。
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